lona-hallelujahの日記

人の成り行き “一度、あきらめた場所で”

小説「一度、あきらめた場所」第14声     「Route 12 -12の鍵となる記憶-」key 10

 

track 10 “酔いの口で、描く小品”

 

 

key Em and Eb and Cm

 

 

 その男は、酔い 潰れてはいなかった

 そもそも、酔いが 醒めていた のかもしれない

 深夜近くのドライブ

 コンビニに立ち寄った

 コンビニの前、駐車スペース

 コンクリートの出っ張りに、男が

  独り 座って 缶コーヒーを

 呑んでいる

 その男を

 避けるように、車 停めた

 車内から 男の様子を 視る限り

 その挙動には すこし 酔いが

 廻っている

 廻っている

 酔い

 過去 現在 未来 世界 社会 夢 希望 走馬灯を呑み

 廻っている

 その男を

 気にしながら、横目で捉え

 コンビニへ 入った

 飲み物を 求めて 立ち寄ったのだが…

 その男のことが 頭に “ある” みたいで

 缶コーヒーを同じく 選んだ

 何故か これは 同じ 種類の ものだろうか?と、

 考えて 立ち止まる

 支払いを済ませて 出入り口へ向かう

 その先に居る、その男が

 何故か 気になり

 男のとなりに 腰を下ろして 座ってみた

 気づかぬように? 気づくように?

 すると 男は 酔いの勢いに 任せたのか

 自然と話し始めた

 「ギターは?」

 と、男は会話を始める

 「…家に」

 と、言葉を切り返す

 何故か そのまま

 「ギターを、弾かせてくれ」

 その男を乗せて、自宅へ向かった

 

 「コンビニに寄って」

 と、男は云う

 「さっきで買えよ」

 と、言葉を呑む

 コンビニへ 降りて

 出てきた 手には ウオッカ風のリキュール 5瓶

 車内で ひとつ 封を 開けたーー

 その瞬間ーーこの男に、一杯 付き合うべきだと感じた

 男を車内へ残し わたしも リキュール 5瓶 

 車内へ戻ると 男はすでに 2つ 空けていた

 

 自宅で 男に 手渡す ギター

 男は手に取り 手慣れた チューニング

 その手際に 技量を 感じた

 男が空気を止め 緊張を与える

 そして、打ち鳴らす 振動

 えぐり出される 膨張

 弦が 解放 されている

 そう… アルコール

 酔いの廻り

 移ろい

 旋回する、頭上の 重なり

 揺らぐ 円環的な リズム 時間

 アパート の 一室を

 隣人の不安を 忘れて

 解放感のなか 広がりを感じたーー

 

 

 

 そして、眼が覚めたとき

 男は立ち去っていた

 たぶん、酔いは 醒めて

 書き置きはなく

 音も 印象だけが 遺る

 男が去った その日 

 わたしは休日を

 何が わたしに 足りないのか 考えた

 

 

 

            (あの音、振動、膨張)