lona-hallelujahの日記

人の成り行き “一度、あきらめた場所で”

小説「一度、あきらめた場所」第32声     「終わった唄のために-恋だった-」

 

 ー恋だったー

 

 

クリスマス

 

働いている施設で、去年に続いて、今年も僕はギターを演奏することになった。

 

とはいっても、演奏会なんてもんじゃなく、余興といっていい。

 

プログラムは…

 

 

「ふるさと」「ジングルベル」それと、とあるアニメのエンディングテーマ曲。

何でかと云うと…「あのアニメを観ていた」と、共通の話題に。以前、そんな会話をあの娘として。

そのことを覚えているか分からないけど、そのアニメのエンディングに流れていた曲を演奏しようと思った。

数少ない…共通の話題。共通の話題の想い出。少なからず、やりがいを感じる。

来年の3月に辞めてゆくあの娘に、こっそりと贈るような、僕の気持ち、だ。

 

あの娘の存在が僕の中で、大きくなっていた。

あの娘と “共有したい” いや “共有できる” ことを感じていた。

僕のことを好いていたようだけど、今は彼氏が出来て、お泊まりも…

「いつも手遅れ」

そう、アントニオ・タブッキ。あなたの言うとおりだ。

 

 

何年か前の、想い出の娘も手遅れになってから、自分の中の感情を隠せなく、素直になって、意を決して…。

想い出の娘とも、“共有したい” いや “共有できる” ことを感じていたのに。

最初、僕のことを好いてくれた…だけど

「いつも手遅れ」で

結局、想い出の娘には、ふられた

 

僕は…

 

でも、良い演奏ができるんじゃないかと思う。

これまでの経験から、気持ちを乗せて

これは、心ある演奏になるだろうから。

心の底から、演奏したいことだから。

たとえ、余興で、他愛のない場だとしても

 

 

ーークリスマスの当日

 

夜勤明けで、迎えた僕の意地。

眠気を何処かへ置いて、演奏した。

 

あの曲は、失敗した。

 

声が出なかった。緊張…それもあったが、前の曲(ジングルベル)で声を張り上げて歌っていたせいで、静かな出だしで…しっとり唄う…感じが、音程、声色…全部、『ジングルベル』な感じになった…笑(笑以外になんと書けと?)

すぐに、演奏を中断し、その曲は止めた。

 

ちなみに

フルート、クラリネットとの合奏で「ふるさと」「ジングルベル」をやった。

クラリネットは、あの娘が演奏した。

僕は、誰かといっしょに演奏する経験がないようなもので…ほぼ、ぶっつけ本番。吹奏楽なんて知らないのに。

人と合わせることの練習もあまりしたことがない僕のテンポのズレを誤摩化しながら…生音をほとんど拾ってくれないマイクとアンプさんのおかげもあり、音は小さく済み、フルートとクラリネットの音量に、クラシックギターの音は…かき消され、

クリスマス演奏(余興)は終了した。

 

「〜さん、ありがとうございました!」と

あの娘が先に声を上げ。そして、その場の同僚も「ありがとうございました!」と夜勤明けでの眠らぬ僕に、言ってくれた。

 

生きた心地を感じた

自分の努力が誰かのための時間になり

居場所を肯定されたような

 

何かが、報われたような

 

そんな感動

 

 

 

ーー忘年会の日。僕は幹事を任された…

 

本当は出たくなかった。

ただの忘年会ではなかったから。

 

この慌ただしい職場で、人手不足のままなのに、これから近いうちに辞める3人(2人ではなく、3人…)の職員のための『忘年会兼、送別会』になる。

それを思うと、恨み、怒り…のような思いが湧いて

幹事の僕は、シフトを見て…僕が夜勤をやり欠席し、他の人たちで忘年会をやってほしかった。シフトを見ると、どう考えてもズラせなくて…仕方なく、諦めて…出席する。

 

あの娘と、最近、関わりづらくしている。

どうせ辞めてゆく人だから。

関わりづらさは、最近、その娘がすごく仕事が出来るようになり、自分の立ち位置がなんだか危うくも感じていた。そんな理由もあったのかな…?

僕を好いてくれていたのに、応えずにいたら…違う男と付き合って、泊まりに行って…

複雑な感情を抱いてしまい

僕は冷たく、他人として、醒めるように

関わりを避けていた

 

そして仕方なく…忘年会の日付を知らせるために、あの娘に話しかけた。

あの娘と僕と、もう一人の同僚が、前もって作成されたいたシフトにより、忘年会の次の日が早番になっている…。

忘年会で夜遅くなって、次の日が早番という過酷さ…

申し訳ない気持ちで、忘年会の日付を知らせたとき、不意に…

 

「がんばりましょうね!」と、

言ってくれた。

 

そこに含まれた濁りのない優しい素直さを感じた。

 

僕は、それで、自分の間違いに気づき

その娘に負けた…と

 

 

ーー恋だった


複雑な 感情を抱く
それは 分かっていても
イライラして 考えてしまって
だけど
自分の中で 消化して
納得しなくちゃいけない

その感情に 気づいたら

恋 だった


自分が 退かなきゃいけないとき
手遅れな とき


頭に 浮かんでは
それで 腹が立って
歪んで 傷ついて
だけど
自分の中で 消化して
納得しなくちゃいけない

複雑な 感情を抱く
それは 分かっていても
イライラして 考えてしまう
だけど
自分の中で 消化して
納得しなくちゃいけない

その感情に 気づいたら

恋 だった

その感情に 気づいたら

恋 だった 

恋 だった だけど

これも 手遅れで

とても

悲しい

いつまで 

空回りするのだろう

自分の 気持ちを
確かめて いたら
空に 流れていった

 

 

忘年会(兼、送別会)、またあのアニメのエンディングテーマ曲を演奏した。

 

 リベンジのつもりで

 …どうしても演奏したかった

 あの娘に

 

 

最後まで弾けた

それで良かった

 

自分のどもり癖だとか

人前で声が通らないことだとか

あがり症だとか

色々、だめだけど

 

最後まで弾けた

それで良かった

 

 

ーー忘年会の帰り

 

色々、だめだった演奏で、ブルーな気持を抱えて後ろ姿で歩道を渡ってゆく僕に

「〜さん、ありがとうございました!」と

また、あの娘が声をかけた

 

 

 

終わった唄のために