lona-hallelujahの日記

人の成り行き “一度、あきらめた場所で”

小説「一度、あきらめた場所」第4声〜小説の中の小説「鶏群の一鶴」Y.Y〜

『生きたい。』

ふいに目が覚めて、彼の頭に浮かび、口に出していた言葉。

28歳。友達と、夢と、希望…それらを失った日常からこの物語は始まる。


彼女が生きる世界を選ばずに(彼女と活きる世界を選べずに)、引き裂かれた孤独者の生命線上。彼はそこでも彼女の面影を視るのか…? それとも…生命を満たす、その気後れがあるのか…?
 「どうか僕を、まともな人間にして下さい。」ある段階で彼の思考は困難なものになった。日常的な言葉を使うのが滑稽で、面倒で…コミュニケーションをする姿勢、それが欠けていった。言葉を口に出すことが億劫になってゆく。これは精神的な治療が必要なのかもしれない。だが、それにより何かが失われることを感覚していた。彼はフツウの人間的な『ニンゲン』で居ることを少しずつ諦め始めた。ある思考の欠如。ある意思表明による放棄。最早、後戻りの出来ない段階に自分が来ているのだと…そして、この足取りを完了させる他は、活きる余地がないことに。
 『ニンゲン』の統合は過剰な分裂により苛まれ、習慣的な回路は途切れだし、直感的な回路が彼を繋ぎ留める。

僕は、これ以上の意識が続かないことを確認し、眠りに就いたーー

(これは、彼が活きる地を発見するまでの物語)

それは膨大な時間に埋もれている。何か…資料を探さねば


まだ出逢ったことのないタイプの人間ーーというよりは、

僕が現に、『好みであるタイプの人』ではなくーー僕が現時点では、《好みに挙げていないタイプの人》を好きになる。ということ、それはーーそれは、自分が選り好む傾向を脱する、脱皮の、手の届き、伸ばしーーである。
 これまでの人生で、そのタイプを見たことはあるのかもしれない。おそらく…有ったのだろう。だが、近づくことが出来なかったひと。すれ違い続けたタイプのひと。そのひとに『出逢う』というよりは、はっきりと、そのひとに接近しーー《身に覚える》ということ。狭き門を作るわけだが…それは現在から、一点に注がれる、絞り込まれた投射であるーー


その場に馴染もうとするための演技がある。失敗した。まあ…いいんだ。


 この世界に愛着を持つこと。それが欠けているし、足りないし…僕に必要な事のように感じた。
 僕の共有の目的は、共感とか、共鳴とか、共震だとか、なんだか知らないが、その人が持つ最良の部分。その人が持つ、おそらく専門的に知る分野での精通した理解。それは高い専門性なのかもしれない。僕が求める共有はそういう部分。ぶぶん。同じ分野でなくとも、コンタクト出来るやり方。それをその人の核として視ること。人間性ではない。人格ではない…。?
 我慢や忍耐の為に生まれてきた御人よ。通過を待つ人の群れ。乗り入れられた御人よ。それは拷問ではないのか? 長生き、それは拷問ではないのか?

 彼は世間との繋がりを途切れさせてゆく。やはり振る舞うことが困難であると、彼は思う。取り繕えた仮面を付けて振る舞い、演じる。段々…、可笑しくなってゆく。仮面が合わなくなってゆく。仮面が合わなくなり、保てなくなる。適応できない、吐き出しの、剥き出しの顔…それ以外では…。呼吸することが無理だと、彼は自分自身との追求以外、それ以外を遮断する。自分が果たすべき役割なのだと。これが。
 頭に入れることが病める。世俗的な話題や、社会問題。それらに目を向けることが病める。だから、密かに、呼吸する。ただ ひとつの 抜け道に

 重ねたい 重ね合わせたい  

 久しぶりにお香を薫いた。わざわざ取り寄せて買っているお気に入りの品。ある懐かしさが香りに含まれている。その香りには、僕がある時期に関わった人たちの面影が漂う。その空気が部屋のなか、頭のなかの吹き抜けを漂う。
 一旦、外に出てみようと、誘う。

 僕はきみとふわふわ漂っていたい。きみを愛して、共に居る。その事実、それでじゅうぶん。かつて僕を好きになってくれたその事実、それでじゅうぶん、いっぱいだよ。
 
 愛はまた、人を孤独に気づかせた。独りが漂う。ふたりで物語は完結しないのだ。
 愛は束の間でも、信じられるということ。信じられたということ。その事実、それでじゅうぶんな事。
 そこに行けば君に会えるかもしれない。どうして僕はまたそうして君を巻き込もうとするのだろう? だが、夢にも現れなくなった。昨日、ぼくは夢精した。それはきみじゃない。違う。遠い

 この物語はまだ続きそうだけれど。

 人に信頼されるのが恐くなった。人に信じられるのが、恐い。この距離なら、間違えないと思う。だけど僕はまた人を曇らせた。
 
 打ち鳴らせ、孤独を
 夜景に溶かそう
 焼き尽くせ、業火で
 骨まで炭色に
 
 重荷。つまり、その人を引き受ける、その重荷が恐いんだ。君は代われたの? 誰かと。僕は繰り返してる? これを掘り進めてきた。この距離なら大丈夫だと思って、夜を押し進めるよ。これで本当に人を導かねばならない、責任。本当の人に生りなさい。その《詩》で、その《言葉》で、嘘の人に生ってはならない。

 あなたのテクストで
 あなたの核心、追究で
 嘘に負けちゃいけない
 嘘に勝ちなさい
 本当に生りなさい
 本当に至りなさい

 忘れないで、あなたを信じたひとが居る。その事実。

 自分を尽くせ
 自分を尽くして
 導きなさい
 
 僕は吐血するかもしれない。それよりも、僕自身が幸せに至ることが誰かのための幸せを導くのだろうか? どんな幸せだろうか? 僕の人生から導かれる核心に至りたい
。その一心。

 光の中で楽しみ
 闇を避ける

 僕は違うんだ、

 光から闇を視て
 闇から光を捜し出す

 それがこのやり方なんだ。幸せに成り立つ方法なのか分からない。結局は核心への追究で…。そうなると、人を人生から死なせない。人を人生から諦めさせない。人を人生それ自体の核心に導くことが使命だろうか?

 
「昔の面影あるね。」

 何ともなしに、しみじみと、そんなことを言われたら…泣きたくなるよ。
 とても嬉しかった。

 幼い頃、とても小さな頃に居たひと。それはその人自身が過去を懐かしむように過去を確かめた、美化する想いかもしれない。過去の自分を確かなものにするように、記憶のスレを照応するかのように…。
 「僕は確かにそこに居たのですね。」幼い頃の面影が他人の中で生きていた。


「君は、物語を書こうとしているのではないね…。君が書こうと、描こうとしているのは…読者の現実に反映する装置だ。それは誘導する手段としての…」
「違う!…いや、違う。僕は…」
  
「もろに、社会に呑み込まれた中で、夢のような環境ではない、現実のつらさの中で、活きる。それを選ぶんだよ。自由人ではない、リアリスティックな文体を持った表現者としてね。だから、僕のこの最低賃金な現状は必要な道具さ。そして武器。そして…勇気さ。この時代だからこその、この国、地域、場所に産まれたからこその体験、その典型から描いた、詩…。だから、だから…ただ、生きて、活きる、その生命の活動と結びついている。」
 
「この時代。この場所に居て味わう苦難に、高潔さを奪われずに生きる。」