lona-hallelujahの日記

人の成り行き “一度、あきらめた場所で”

小説「一度、あきらめた場所」第10声「3日間の旅 第1夜」

 

「それで、ちょうどいい」
今年の雪の降り始めは、予想外の積雪になり、高速道路の途中区間が通行止め。
それにより、到着予定よりも1時間ーー遅くなる見込みのようだ。
それが却って、この旅路を考えるものにしてくれる。

高速バス、11月中旬、北海道。


僕が持ち込んだのは、ギター教室の先生から安価で譲ってもらったオンボロなガットギター。
創作ノート。詩や小説のために溜め込んだ断片がノートパソコンに。
それと、本が数冊。着替え、3日分。
この旅は、だから、3日間の猶予で終わる。
その3日間は、意図せず、上司が作成したシフト表の都合から得たものだった。

3日間で、人は、変われる。
2日間では、足りない。3日間あれば、くたびれた引き摺りを決着させ、何かを人生の軌道に見出せる。人生が動くーー

物語は冬から始めるーー

1冊しか読まれなかった、あの本に僕は綴った。

まるっきり、同じ事はないが、状況は近づく。
高速道路の通行止め区間を避けて、一般道に下りた高速バスの窓から見える外は、
夜景で染まり、雪が止んでいる。

僕の活きかたは誰かに共有されるのだろうか?
例えば、どんな人に…? 理解されたいというか、見つけてほしい?
核の部分。僕が重きを置く、注入口に。
もう一度、生と死を考えてみる。あの人にそう言った。
だけど多分、僕は生きてることに重きを置いている。
死を忘れてはいない。だけど、
外は再び、雪がちらつき始める。
この活きかたの到着先は、あるのだろうか?


眠りがやってくる


目が覚めたとき、バスは高速道路に戻っていた。
通行止めの区間は過ぎたようだ。

旅には迷いが付き物で、あれを持ってくれば良かった…これは置いてくれば良かった…と。
判断ミスについての、後悔をする。旅に、はたまた…人生に、必要なもの。それは、本のいくつかであれば、軽くて良いのだが…抱え過ぎて、身動きが取れなくなる。ときどき、軽く。軽くなりたい。旅とは

バスのナレーションは目的地を告げ、置き忘れがないか立ち上がった跡を振り返り、札幌に降りた。

ホテルに近い場所で降りたのだが、道筋がはっきりしない。
コンビニに立ち寄り、店員に訊こうとしたとき、道ばたの観光案内の地図が目に入る。
それを自分が持ち合わせたホテルについての情報と重ね合わせ、夜の道を確証なく、歩いた。
多くは人が見られず、出歩いていない。
この場所の夜、次の場所への地図が頭に確証なく歩いている人は、どのくらい居るのだろうか?
ある猶予の中で、人生の軌道について何かを見出そうとする人は、この場所、この夜に、どのくらい?
たぶん、それぞれ、孤独で、満たされるものを求める、それだけ。
迷いながらでも構わずに、自分と向き合う孤独を受け入れて、歩けていない。
古風で、寂れた、幽霊の出そうな…ホテルに到着し、フロントへ。通路が狭い。フロントの人が何故だか僕を観て、はっ と、息をのんだ。だれかに見えたのか、ギターケースと荷物を抱えた僕の姿。鍵を受け取り、狭いエレベーターで上へ。鍵の数字、部屋の場所。重たく、ひどく疲れた雰囲気の通路を歩き、ドアを開けると、その雰囲気の重さが部屋のなかまで入って、シャワーの口から漏れた水の滴り、音。疲れと寂しさが遺った部屋に、空間の中での孤独に、懐かしさを感じた。

 

旅の夜は、時間を持て余せば、ふと誰かについて考えてしまう。
応えるべきたった、あの人。携帯に手を伸ばし、ふと、メールを送ってみようかと思った。
まだ、そのままのメールアドレスが使えるだろうか?
隣りの部屋に客が入ったようだ。
どうやら、部屋の物音は聞こえるようだ。ここでは、ギターは大きく鳴らせないな…と。

物音で、途切れた、ふとした思い。結局、メールは送らず。