lona-hallelujahの日記

人の成り行き “一度、あきらめた場所で”

小説「一度、あきらめた場所」第26声     「終わった唄のために-相容れない世界-」

 

 -誰とも-

 

 

春のすこし前、職場に、これから辞めてゆく同僚の代わりとして、若い女の娘が入ってきた。

事前に「こんな人物が入ってくる」という情報のうわさに聞く限り、すこしワケありの女の娘なのかな…と勝ってに想像をした。職場の戦力としては、あまり期待せずに、とりあえず猫の手でもほしいような忙しさが日々あるので、「ようこそ」という心持ちで迎え入れようと思った。

 うわさの娘は、赤い茶髪で、くるくるとパーマをかけた短めの髪で、若い頃、社会に出始めたとき、僕もあか抜けようと、これから羽を伸ばそうとしていた頃を思い出す。20代前半の若い娘の雰囲気そのままが入ってきたなという印象だった。

マイペースの、ほんわかとした、のんびりとした、でも、そこがその娘の良いところだとすぐに分かる。そんな娘で、そんな気がした。

印象的だったのは、マンツーマンで、その娘に仕事を教え始めた時、

はっきりと

 

 ぎゅるぎゅるぎゅる〜    ぐう〜 

 

お腹の音が聴こえた。

笑いそうになった。

隠しようがないほど、はっきりと聞こえた。

でも、僕は胃が弱いタイプだったので『ぎゅるぎゅるぎゅる   ぐう〜』のその音に親近感を覚えた。「僕のとよく似た、お腹の音だな」と、そのとき感じた身近な親近感を何だか伝えたくなったけれど、女性だし…と、聞こえなかったフリをした。

聞こえなかったフリをしながらも、僕もイジワルで…その娘の顔をぱっと、観た。

 その顔、赤くなっているだろうな…と思ってみたが、何もなかったかのように平然と立っていて、だが、僕と目線をすこし外し、どこかを観ているようで、観ていない感じ。肝が据わっていたのか…? いや、寝坊して、朝ご飯食べてないのか?

それとも、仕事のことを覚えるのに集中していたのか? ちょっと興味深かった。

「きみも、お腹が弱いタイプなのかい…?」と

 

誰とも相容れない世界で

歳を重ねる事に身につけたことは、自分の世界観を持つ事だった

それだ、他人との距離を隔てる要因として、ただ、人との距離間を広げて

自分の内のなかで、外には出ない何かの拡大にしかなっていないことに気づく

誰とも

誰ともに、なってしまう

誰とも、相容れない生き方に

そこで待ったが掛かって、今の現実に。現実に、立たされている。

誰かと、重なる部分

誰かと、共有する事

誰かと、共有する時

『誰か』が 僕の現実に感じることが出来るのだろうか

 

 

「良かったですねえ、若い娘が入ってきて。」と、辞めてゆく同僚が、僕に云った。

その娘は、近くに居て、耳に入るところで。

 

その娘が、どんな娘なのか。僕は、もう気になっているのか? だけど、彼女は若く、若いなりの、これからの可能性を感じながら、生きているように視える。彼女は、これからの、その可能性を体験するために、様々な世界に足を突っ込むのかもしれない。そんなとき、ぼくのような人間は邪魔に思う。ぼくは、他人との隔たりを、距離感を拡げようとしてきたのだから。他人との可能性を広げようとしてこなかった。

彼女と、重なる部分を探すのか?

なくは、なかった。

『音楽』

その娘は吹奏楽部出身で、クラリネットを吹くと言った。

またあるとき

「どんな漫画を読むんですか?」

という話しになって、僕が答えた漫画が、彼女が好きな漫画(アニメ版だったが)でその漫画をまわりで好きなひとは居なかったから、珍しいと言った。

そこに、また、親近感を持つことが出来た。

だけど、会話をしていても、彼女のこれから外側に変化してゆく世界観と、僕の内側で拡げようとしている世界観とでは、方向性が異なるのを感じた。

そして、足を引っ張るだろう。

 

 

僕は、歳をとったんだ。こりかたまった、疲労の、疲弊した、重い腰があがらない、自分の外側へと動かない世界観だ。

自分の内側で腰を落ち着けようと、じじくさい。

歳をとったな…。冒険は終わったのか?。

自分探しも。